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ある牧場主の物語をご紹介しましょう。
牧場主は、長年一頭の馬を大変大事にして飼っていました。ところが、ある日その年老いた馬が深い排水溝に落ちてしまいました。彼はすぐさま引き上げようと手を尽くしましたが、うまくいきません。近所の人人を呼び集めて試みた様々な努力も、ついにむなしく終わりました。
牧場主は、悲しみの声を上げ、愛馬を生きたままそこに埋葬するしかない、と決断しました。そして、集まっていた人々に、その深い溝に土を投げ入れるよう頼みました。何杯ものバケツに入った土が、次々と溝に入れられました。
その馬は、頭から土を浴びるたびに体を震わせて払い落としました。何時間過ぎたでしょうか、馬が払い落とし続けた土は、馬の足元に積もっていき、なんと自力で穴から出られるほどの高さに達したのでした。
私たちの人生にも、どんなに自分の知恵を尽くしても這い出せないような深い溝に陥っていると感じる状況があります。何度抜け出そうと試みても失敗し、諦めてしまうことが。肉体的にも精神的にも経験する深い溝が、私たちを失望させます。人間関係の破たん、実行されなかった約束、健康状態の悪化……そのどれもが、あたかも自分が生きたまま埋葬されつつあるように感じさせるのです。
そのような状況の私たちを救い出そうとされる方がおられます。イエス・キリストです。その愛のゆえに、
「わたしはあなたがたを友と呼ぶ」(ヨハネによる福音書15章15節)
と言われ、十字架上で、私たちの罪の身代わりの死を遂げ、三日目に復活されました。
ところで、皆さんの中には、数年前にチリの鉱山で起きた落盤事故を覚えておられる方もあるでしょう。何日もの間、33人の作業員が地下に閉じ込められました。作業員の家族の多くが、愛する人の救出を諦めましたが、坑内の現場監督は、生還のためにそこでできること ―体操、家族について語り合うこと、仕事の負担を分かち合うこと― を毎日させ続けました。彼は、部下に励ましの言葉をかけ続け、祈り続けました。やがて、多くの人々の懸命な労苦によって新しい立坑が掘られ、彼らは救い出されたのでした。
日々すべての人々に対する愛を実践し、心を寄せることを通して、人々が深い溝から出てくるための手助けをすること、それが、救世軍の使命です。人々の必要に応えたい、と私たちは、日ごとにイエス・キリストからの励ましを受けて働いています。キリストが共にいてくださるなら、その大きな祝福をいただきつつ生きることができるからです。
イエス様の愛を基盤としているからこそ、救世軍の施設にいる子どもたちは、愛と尊厳のうちに育てられ、施設や病院にいる高齢の方方は、尊敬と慈しみのうちにケアを受けているのです。
日本における救世軍の働きは、今年121年を迎えました。長年にわたり、多くのご支援をいただいて働きが進められていることに、心から感謝しております。今後とも、困難な状況に苦しむ人々を救うため、ご協力いただければ幸いです。それは、困窮や孤独の中にある何千もの人々の人生に影響を及ぼすからです。最後に、あなたご自身の人生も、イエス・キリストと共に生きる時に与えられるお恵みで満たされますよう、お祈り申し上げます。
「わたしの神は、御自分の栄光の富に応じて、キリスト・イエスによって、あなたがたに必要なものをすべて満たしてくださいます。」(フィリピの信徒への手紙4章19節)
(救世軍士官〔伝道者〕・司令官)
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