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聖書は、両親や年長者、指導的な立場の者に対する尊敬や敬けい慕ぼ の念を教えています。その教えの代表的なものといえば、旧約聖書出エジプト記二〇章一二節の
「あなたの父母を敬え。そうすればあなたは、あなたの神、主が与えられる土地に長く生きることができる」
です。これは、有名なモーセの十戒の言葉で、人間関係を教える中心的な戒めと言えましょう。当時のユダヤ人の子どもたちは、親の神様への信仰、信頼を見ながら育ち、究極的な価値を身に着けました。
彼らは、神様を、超越した存在とだけ見るのではなく、人と人格的に親しく交わり、共に住む愛の神として信じていました。全知全能なる存在と見るだけでなく、救い主、慰め主、助け主であるお方として認識し、どのように神様とお付き合いしたらよいかを子どもたちに身をもって示しました。子どもたちは、親の姿を通して信仰を学んだのです。
親は、子どもにとって、神様に喜ばれる、神様に祝福された人生の手本であり、見本でした。親には、普段の日常生活を通して、真の幸福、生きる術を身につけさせる責務がありました。「お父さんのように、お母さんのように生きていけば、大丈夫!」と確信させたのです。
昨今、報道などで児童虐待の痛ましい事件を耳にし、心が痛みます。イエス様は、一人の子どもを呼び寄せ、人々の真ん中に立たせ、次のように言われました。
「はっきり言っておく。心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。」( マタイによる福音書18章3節)
大人は、どこかで子どもを、不完全で、弱く、未熟な存在と見なして、大人の論理を押しつけます。しかし、イエス様の発想は、子どもを中心にした視点でこの世界を見るものでした。それは、強者を頂点としたピラミッド型の世界ではなく、弱者である子どもを頂点に据えた、逆ピラミッド型の社会観、世界観でした。イエス様は、子どもを尊び、愛し、受け入れたのです。
日本の救世軍の初期における指導者であった山室軍平の「母の愛」という説教を紹介しましょう。
軍平は田舎の貧しい農家の八男坊として生まれます。小さいころから体が弱かったので、母親は軍平の成長を案じて、神様に祈り、ただ祈るだけでは、自分の誠が伝わらないと思い、
「軍平が人様に迷惑をかけない大人として立派に成長するまでは」
と、そのころ田舎で最も滋養の高い卵を食べないと決心して、その後亡くなるまで卵を食べませんでした。軍平は、その説教の最後で、彼の有神論の根拠はこの母の愛です、と明言し、
「こうした有難い母をくれた神様は、その母を幾万倍した愛の神様でなくてはならない」
と言って説教を締めくくりました。
幼い軍平は、母の祈りと愛に触れて成長し、やがて自分自身のためだけでなく、誰かのために、世界の救いのために自分を献げて生きる人生こそ、母の愛に報いる唯一の証しであると悟ったに違いありません。
二十一世紀の多様化した価値観の今日においても、最も素晴らしい賜物は、神の愛に裏づけられた人の愛です。あなたは、愛を見失っていませんか?
(救世軍士官〔伝道者〕
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